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かまどの神様/三上紀子のキッチンにまつわるお話
【第五十三回 かまどの神様エッセイ】 2007/5/25

「かまどの神様 食育とキッチン空間のはなし (5月号その3)」
 
こんにちは。レジオンデザインの三上紀子です。さわやかな陽気が続いています。昼間、屋外を歩くとつい汗ばむような陽気です。今日も街中で半そでのニット姿の女性を見かけました。梅雨に入る前のこの時期はさらさらした空気がとても気持ちがよく、いろいろなおしゃれが楽しめます。一方、太陽の陽射しはすっかり初夏の様子、女性にとっては紫外線が少し気になりはじめる季節でもありますね・・。

さて今月は、「食育」というテーマからキッチン空間を眺めてきました。「食育」・・・・「知育」や「体育」とならんで今日ではすっかりおなじみの言葉となりました。「食」という行為・場面を通じていろいろなことを感じいろいろなことを学ぶこと・・それは、子どもだけではなく、大人の私たちにも当てはまる大切な日常生活の1シーンです。
「食育」っていわれると何だかとても身構えてしまうのですが、もっと普段の生活の中で「食育」が実践できないかしら・・・と思うことがあります。そこで、今日は私のもうひとつの顔―建築士の立場から「食育と住まい」について考えみたいと思います。

「食育と住まい」と聞くと、まず第一に私が思うのは、「お手伝いのできるキッチン」が欲しいということ。だれでも子どもの頃、食事の用意のお手伝いをした経験があるかと思います。昔の家の台所は少し広めで、何かの行事の時などは近所の人達がきて数人でお勝手仕事をしていました。子どももその横で、豆のさやを剥いたりボールの中の材料を混ぜるなど様々なお手伝いをしていました。そしてそんな中で少しずつ料理の手順や野菜や食材のことなどを知っていったと思います。
一方、現代のキッチン空間はとても機能的になりましたが、その代わり全く無駄もなくなり、子どもが入り込む余地がないように思う時があります。確かに、キッチンは刃物(包丁)や火(コンロ)があったりして危ない空間ではあるのですが、かつてはそれはそれとして普段は大人が注意してあげて、それが扱える年齢がきたら使い方を教えてもらっていたような気がします。

例えば、現代のコンパクトなキッチンでも、ワークトップの横にすこし低めのテーブルがあったら・・・、きっとそこでは子どもたちが下準備のお手伝いをしたり、配膳のためのお皿を並べたりできるでしょう。わいわいおしゃべりしながら食事の準備をするのはとても楽しいことです。そしてすべて材料がお鍋の中に入ってしまった後は、出来上がりを待ちながらそこで宿題のドリルをしたり、今日習ってきたことを復習がてらお話してみたりしてもいいのです。要は、なんとなく日常の中で食について学べる環境があることが大切だと思うのです。

さらにもうひとつ、食育のために現代のキッチン空間に欲しいと思うのは、「手間ひまをかけるための場所・スペース」です。自然の食材を使うには、それなりの下ごしらえの工程が必要になってきます。例えば、皮をむく、泥を洗う、天日干しにするなど、自然の食材を美味しく頂くためには、何かひと手間かけることが求められます。新鮮な採れたての野菜を入手したのはいいけれど、さあ調理するぞ!となった時に、ハタと困ってしまうことが多々あります。
実は私の実家の両親は今、家庭菜園にとても凝っていて、毎日夫婦で畑仕事に精を出しています。そして収穫があった際には、ダンボール箱いっぱいにさやえんどうやとうもろこし、玉ねぎを宅急便で送ってくれるのですが、それらを下ごしらえのために広げようと思うにも、キッチンのワークトップの上では狭いし、ダイニングテーブルの上は食事の配膳のために空けておく必要があるし、果たしてどこでやろう・・!?と困ってしまうのです。今住んでいる家はマンションなので縁側などはありません。でも幸い、キッチンのすぐ横にバルコニーがあるので、先日も頂戴した大量の玉ねぎを紐で連ねてくくってバルコニーに吊るすことにしたのですが、バルコニーといっても屋外ですから雨が降ると濡れてしまう、ということに気がつきました。そこで、毎朝必ず天気予報を聞いてその日のお天気を確かめ、降水確率の高く雨が降りそうな日は吊るしている玉ねぎを屋内の紙袋に取り入れる、ということをやっています。なんだか朝の仕事がひとつふえた気分・・。昔の家みたいに土間や縁側のスペースがあれば、吊るしっぱなしで済むのにね!

現代の日本の住まいは床面積の狭さという事情もあり、とても合理的なプランで無駄のないスペース配分になっており、いわゆるサービスヤード的な空間はほとんどありません。昔の家には土間や通り庭といった外でもない内でもない、一見とてもあいまいな空間がありました。建築の近代化とともにそれらの空間は姿を消してしまったのですが、本当はこのような空間こそ生活の中ではとても必要なスペースで、非常に機能的な場所だったのです。近代になり食文化の合理化とともにキッチン空間もコンパクトになりました。そして、縁側や土間といったスペースもなくなってしまいました。しかし、手間隙かけた本来の食文化をもう一度行うためには、それらのような一定の広さの場所が必要なのです。

「食育」を実践するには、家のプランから見直す必要があるようです。なんだかとても大きな課題にぶつかってしまいました・・!!

さて、次回は6月です。来月もこのつづき、「食育と住まい」「これからの日本の食文化とキッチン空間」についてさらに深く考えていきたいと思います。・・・どうぞお楽しみに!




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