ひたすら”ばみる”駆け出しAD!
地味なアナログ作業の積み重ねがエンターテイメントを生む!
「おーい!AD君ここを”ばみって!”」こんな言葉がテレビスタジオでよく飛び交う。
”ばみる”=場見る、すなわち出演者等の立ち位置に長さ3〜4センチのビニールテープを床に貼って、目印を付けることをいう。
大概は駆け出しのAD(アシスタントディレクター)の役目だ。ADは、色付きビニールテープをポケットに何本か入れ、リハーサルの時に出演者の立ち位置が決まると素早くフロアーに貼っていく。しかし”ばみる”作業は簡単そうで結構むずかしい。実は、ビニールテープをカットするのにいちいちハサミで切るワケではなく、手でちぎる。これが結構テクニックがいる。
力任せにちぎってもテープが伸びるだけ。爪をナイフ代わりにして、スパっと切るには要領が必要だ。ましてや女性ADには到底無理。
そこで予めハサミで3〜4センチに沢山切っておいて、それを自分のジーパンにペタペタ貼っておく。そうすれば、瞬時にバミテ(ばみりに使う段になると名称が変わるのだ)が用意できる。かくして、ADのジーパンは、バミテの縞模様になっているのが常だ。
出演者以外の引き枠(出し入れのある道具類)にも”ばみる”。
例えば椅子の場合は、4脚すべての位置に”ばみる”必要はなく、2ヵ所でよい。
この時、カメラ側から見て、後ろの脚のところに貼らなければいけない。
こうすればバミテが写りこまないわけだ。
バラエティー番組などで、一見いい加減に撮っているようでも、基本的なところは”ばみり”によって正確に位置合わせしている。
”ばみり”の位置から50cmずれて立ったりすると、ちゃんと 照明があたらなかったり、顔が陰になったりする。もうひとつ、ビニテの色も気を使わないといけない。白いフロアーに黒のビニテでは目立ちすぎてしまう。かといって、白いビニテでは見えない。ほどよい同系色を使うのがベストだ。
また、例えば「新春かくし芸大会」のようなスケールの大きな番組になると、出演者の数も非常に多くなる。したがって”ばみり”テープも比例して多くなる。
「この”ばみり”は何の道具の”ばみり”だっけ」 とごちゃごちゃ状態になってしまう。
それを防ぐためには、色分けしたり、あるいはテープの上にマジックで”イス”とか”司会”とか書いておけばよい。
ところであるとき、こんな事件が・・・。通常この”ばみる”作業はリハーサルで位置決めをしていくとき行う。テレビスタジオのフロアーは、もともと、グレー一色だ。フロアーに美術さんがタキロンという一種セルロイドのような薄い床材を色・形さまざまに組み合わせて敷き詰めてセットが完成になる。
「かくし芸大会」では、演目ごとにフロアーのタキロンが貼り変えられ、瞬時に、セットの転換が行われる。
ところで、タキロンは、段取りの都合によって、リハーサルのときに敷かないこともある。事件はこのとき起きた。
「おーい!AD君”ばみり”はどこだ!?」
「あれ?さっきここへちゃんと貼ったんですが・・・」
「でもないよ。なに寝ぼけてんだ」
「しまった!」
「アホかお前は。これじゃ司会はどこに立っていいかわからないじゃないか」
「すいません」
このAD君は、気を利かせて早めにばみっておいたのだが、何とリハーサルの後にタキロンが敷かれたからたまらない。せっかく貼った”ばみり”は無残にもタキロンの下に隠れてしまったのだ。
華やかなエンターテインメント作りの裏では、こうしたアナログ作業の積み重ねが存在する。
ところで、このAD君とは、「私」なのだ。
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