生放送で35時間ドミノ倒し。
そこにはテレビに映らない人間模様があった。
「皆さん、これから27時間、実際には35時間くらい寝食ともにして、ぶっ通しでドミノ倒しの作業をよろしくお願いします!」
毎年7月になると思い出すのが、フジテレビの「27時間テレビ」。私は10年間担当し、この中で3年間「ドミノ倒し」を生放送するという無謀な企画に挑戦した。
ドミナー(ドミノの駒を立てる人)とスタッフ合わせて合計150人弱のチームが一堂に会した。生放送開始とともに駒を並べ始める。最初は行儀よくやっていても、だんだん疲れてきて、ある人は寝そべりながら、ある人はあぐらをかきながら、ドミノを立てている。
駒がたくさん並ぶと、フロアが狭くなるので、中心から立て始めて、外へ外へと広げていかなければならない。外から立てると出られなくなってしまうわけだ。
ドミナーにとって大敵は身に着けるアクセサリー類だ。
首から下げたネックレスや、IDカードでよく倒してしまう。
私はポケットに入れた携帯電話を、かんがんだときにポロリと落としてせっかく並べたドミノを倒してしまったことがある。1個倒れると、そのブロックが全滅して、それまでの苦労が水の泡。ズボンの裾が広いのもよくない。
こういうときは、格好悪いけど、靴下の中に収める。
たくさんの注意事項を頭に入れ、テクニックを磨いても、一番大事なのは、何よりも”根性”だ。
応募してきたドミナーには、いろんな人がいる。ある親からは、「娘が根性なしなのでよろしく」と頼まれ、倦怠期を迎えた夫婦もやってきた。
「何でアタシがこんなことやんなきゃなんないの?」根性なし娘は、はじまってすぐにふてくされた。そのうち5分作業して、30分休憩というペースになってきた。
一般の方だけに叱るわけにもいかない。
しかし、他の人たちの士気にも影響してしまうので、グループから外し、彼女一人だけの責任範囲を決めて、「この部分が完成しなければ全て君の責任だ!全国放送されている視聴者の前で大恥をかくよ」とプレッシャーをかけた。
ドミナーを励まし、私自身も床に座り込んでドミノを立て、皆に”がんばる”姿勢をアピールしながら時が過ぎ、深夜を回った。
会場をまわって戻ってきたら先ほどの娘のドミノが進んでいた。
「オッ!なかなかいけてるじゃない、ちょっと倒してみせてよ」と私はけしかけた。
「エーなんで倒さなきゃいけないのよ」とまたふてくされた。
今倒したらこれまで立てたドミノをもう一度最初からやりなおさなければならないことになる。
「でも、もし本番でたおれなかったらどうするの」とけしかけると、彼女は渋々OKした。
「じゃ、自分の手で倒してみて」彼女は再び驚いたが、
「やるわよ」と言って、はじめのひと駒を倒した。そして見事に成功した。
「やったね、きれいだよ」スタッフからも拍手がおこった。
「うれしい!」彼女は俄然やる気を起こして態度もガラリと変わった。
その後、自ら進んで私にテストをして見せてくれた。
そして、いよいよ緊張の大本番を迎えた。ドミノ倒しは、玄関ロビー、廊下を通り、階段をかけ上がり、やがてスタジオの出演者の前にある屋台くずしへとつながってクライマックスとなった。
大成功だ。
スタジオは拍手の嵐に包まれ、ドミナーも感きわまって皆頬をぬらしている。
例の娘も仲間と抱き合っていた。
倦怠期を迎えた夫婦からは、1週間後、便りがきた。
「この27時間ドミノ倒しを夫婦で協力して立て、若い人たちと苦労と感動を共有したことで、もう一度夫婦の絆を確認できた」と。
テレビの裏側にはこんなドラマがあった。ドミノは人々のさまざまな人生模様を秘めて倒れていく。 |