震える手を何とか止めねば!
"箸入れ"シーンで冷や汗タラタラの舞台裏
「おい!手が震えてるぞ」(カメラマン)
「はい!すいません」(AD)
テレビの旅番組の食事シーンで、箸でつかんだ料理の ”どアップ”' が映ると、箸先が震えているのをよく見かけませんか?
機材もスタッフも少ない外ロケは、たいていカメラは一台。こうしたときの食事シーンの撮影は、簡単そうに見えて実は意外にむずかしい。
最大の問題は、早く撮り終えないと料理がどんどん冷めてしまうこと。従っていちいち三脚を立ててじっくり撮っているわけにはいかない。結局カメラを手持ちのフリーハンドにして、食事の一連動作を流れで一気に撮っていく。それが終わるとリポーターの出番は終了。最後にまとめて料理のアップを撮る。ここからがAD(アシスタントディレクター)の大仕事のはじまりだ。
料理で箸をつかむのを、テレビ業界では、"箸入れ"と呼ぶ。ADがリポーターの代役となり、先ほどまでリポーターが座っていたところへ同じように座る。分厚い座布団があり、照明もあたっていて、ちょっと照れくさい。
ADは、箸に料理をつまんでテーブルと口元の中間点のところで静止させる。そこをアップで撮る。しかしこれがうまくいかない。とにかく震えてしまう。ほんの少しの震えでも、画面がアップになるので、大変目立つ。最悪なのはお刺身だ。止めているのに、箸で持った切り身の下の方がプルプル震えている。何とか止めねばと、手先に力を入れるのだが、そうするとますます震えてしまうのだ。
あるとき運悪く!?出演したリポーターが左利きだった。しかしスタッフ側には左利きの人がいない。まだ若かったADの私が"箸入れ"をやることになった。その"箸入れ"は当然左手でやらなければならない。冷や汗タラタラ、頭の中が真っ白になったのを覚えている。テーブルの上の10品全部の"箸入れ"シーンを撮り終えることには、身も心もクタクタだ。
さて、食事シーンは、おいしそうな映像もさることながら、リポーターのセリフも核になる。一般的に「おいしい」としか表現できないリポーターは失格とされている。しかし正直、料理の感想を表現するボキャブラリーは大変むずかしい。もちろん放送作家が事前に台本にセリフを書き込むことは絶対にない。正にリポーターのリポーターたる腕の見せどころになる。
私の大好きな三笑亭夢之助さんによれば、料理のリポートで困ったときは、「あ・い・う・え・お」さえ言えば大丈夫だという。
1.最初に料理が運ばれてきたら
「あッ」=びっくり
2.しみじみ料理を見たところで
「いーッ」=見た目
3.ひと口食べて
「うー」=堪能(眼が寄っていると尚良い)
4.飲み込んだところで
「えー」=驚き
5.味わい終わって
「おーッ」=感激
なるほど、これさえあれば、大概やりすごせるという訳だ。
「おいしい」と言わなくてもいいおいしさが伝わってくる力量。テレビ界では、表現力のあるものが勝ち組になるのだ・・・。 |