仕事に「からぶり」はつきもの。”手乗りニワトリ発見”の珍ネタに大奔走!
まだベルリンに壁があり、ドイツが東西に分かれていた頃に起きた事件。ある日、旧東ドイツから新聞の切抜きが送られてきた。
そこには驚くべき写真が載っていた。「中国の奥地にある農林試験所で、品種改良を重ねた結果、ついにニワトリの小型化に成功し、ペットとしての”手乗りニワトリ”が話題を呼んでいる」という内容だった。写真を見ると、人間の指先に、ちょこんと乗っているではないか!サイズは10cmくらい。立派なとさかのついたミニチュア成鳥だ。
これはすごい! 日本の通信社も取り上げていないので、早速取材に行くべく、その切り抜き写真を、番組と契約している中国のコーディネーターに送った。
旧東ドイツは日本と国交はなかったが、中国とは同じ共産圏同士で、情報も行き来している。だから、我々には分からなくても、中国のどこかに絶対いるはずだ。
ところが、”手乗りニワトリ”ところか、農林試験所さえ見つからない。
そうしてついに1年が過ぎてしまった。ならば、東ドイツのこの新聞社に問い合わせて、調べ直すしかない。
やがて、その記事が載っていた新聞が丸ごと送られてきた。「さぁ、これで謎が解き明かされるぞ!」と、何気なくその新聞の日付を見たら・・・。ガーン!!
なんと4月1日(エイプリルフール)の日付が。1年もかけて、中国のコーディネーターに頑張ってもらったのも、すべてからぶりに終わってしまった。
またある時、取材チームが北欧へロケしたいという。企画をみると内容が少し貧弱なので、これでは番組が成立しないと判断し、私はNGの返事をした。
しかし、スタッフも熱心で、粘り強く議論していくうち、私も「それならトライしますか」と了承して、ロケ隊を出すことにした。以前、日本でいろいろ調べるより、現地へ行ったほうが、リアリティーが増し、想像以上のものが撮れたケースもあったからだ。
北欧チームがロケから帰ってきた。すぐにプレビューしたが、残念ながら、私の一抹の不安は的中してしまった。やはりロケに出る前に止めるべきだった。
これをこのまま放送してもいいのだろうか?もしこれを放送したら「なるほど!ザ・ワールドってこんな程度なの」と思われてしまう。そうすれば今まで築き上げてきた評価は一気に崩れてしまい、立て直すのは容易ではない。
「王さん、出来上がりましたよ!」とスタッフがテープを持ってきた。
私は歯を食いしばって言った。
「ごめん!申し訳ない!とにかく私が全面的に謝る。この作品はボツにさせてほしい」
私は本番の直前で苦渋の決断をした。
制作したスタッフも悔しかっただろうが、私も自分に対して悔しかった。
ロケの出発を決断したのは私だったからだ。
スタッフ、出演者に謝り、経費は全額支払った。スタッフの熱意もエネルギーもお金も無駄にしてしまった。
しかし、この話は局内の他のスタッフにも伝わり、やがてテレビ界全体へと伝わっていった。しばらくして、「なるほど!ザ・ワールドはそこまでやるか。なんてすごい番組なんだ!」という神話が生まれたのだ。その後、番組はますます評価されていった。
仕事上で、「からぶり」はつきもの。しかし、その時の決断しだいで、三振にもなれば、逆転ホームランにもなることを学んだ。 |